一人でディズニーシー行った話


引っ越し以来実家にあったちゃぶ台を使っているのだが、床に座って食べる習慣がないので、これまで家で落ち着いて食事をとれたためしがなかった。今日から夏休みを取っているので、ゆっくりIKEAでも行って小さめのテーブルを探そうと思った。東西線の駅が徒歩圏内にあるから船橋の店舗まで出かけることにした。はたして希望通りの食卓はすぐ見つかり、私のQOLの向上が約束された。ちゃぶ台は捨てないでおいて、いつか何人か招いたときにでも使おうかな。クッションは全部捨てちゃったんだけど。

IKEAの最寄り駅は京葉線の南船橋という駅で、快速かなんかだと、舞浜まで15分強で行ける。というか、東京へ戻るときは舞浜駅を通過する。舞浜というのは東京ディズニーリゾートの最寄り駅だ。ここ数年ほどずっとディズニーシーに行きたいと思っていた。一人だったけど今行って問題ないんじゃないかな〜 という気がしたから舞浜駅で電車から降りてしまった。

ちょうどそれくらいの時間だったので17時からのパスポートを買うことにした。3300円だから結構お手頃。モノレールに乗ってディズニーシーの入場口まで行く。一人客は私のほかに二人見受けられ、どちらも私より年上の女性だった。

園内に入ってしまうとあまりに混んでいるものだから一人だろうがなんだろうが気まずくも寂しくもない。白状すれば「うわあの人ぼっちディズニーしてるよプークスクス」みたいにJKに笑われて自尊心が粉々になるのを予期していたが、皆自分のことしか考えていないからそんなアホな目には遭わなかった。自由な気持ちでそこらへんをぶらついた。一度だけ一人でいることで損をしたが、それはスタッフの対応であった。海を一周する船の順番待ちをしているとき、完全に「いない人」として扱われ、後ろにいた二人組が先に案内されたため、一便見送らなければいけなかった。3分くらいしか待たなかったし私も声を挙げたくなかったから特に気にしていないが、一人客がいることにあとから気づいた彼女のばつの悪そうな顔。今晩のミーティングとか日報とかで反省の弁を述べていることだろう。日が暮れかけた海上は心地よい風をよく通した。カルガモを何羽も見かけてしまった以外はいい船旅だった。

自分としては平日(それも木曜日)に行楽地に行ったつもりだったが、学生にとって今日は長い夏休みのうちの一日で、混雑もはなはだしい。乗り物はほとんどすべて、1時間以上待たないといけないようだった。私の一番好きなアトラクションはこういうときでも大抵5分しか待たない。「シンドバットの冒険」という、「イッツ・ア・スモール・ワールド」のディズニーシー版。乗客はただ船に乗って人形が動くのを見ているだけだから、すごく地味で、人気がないのもわかる。でも全体を通してクオリティが非常に高く、何度乗っても楽しいと私は思っている。特に、場面が切り替わってもBGMが一続きに聞こえるのはすばらしい。またいい曲だから耳から離れない。一応、シンドバットが航海に旅立ち、さまざまな経験をして宝物を探す…という物語仕立てで、途中、クジラやサルや魔人なんかが出てくるのだが、開園当時、彼らは「理性を持たない障害物(倒すべき敵、というほどではない)」として描かれていた。クジラの潮に船を吹き飛ばされたり、サルにバナナで襲われたりして、シンドバットと愛虎のチャンドゥーは大いに困っていた。しかし、リニューアルを境にこれが一変する。工事期間を終えたそのアトラクションの世界観には、完膚なきまでに性善説が行き渡っていた。クジラもサルも魔人も出会ったときからみんな友達。一緒に楽器を演奏したり、背中に乗せて運んでもらったり、あげく終盤では「宝物は金銀財宝ではない、出会った友達だ」とシンドバットは歌うのだった。何への配慮があったのか知らないが、平和な気持ちで見られるから、この変更は間違っていなかったと思う。ちなみに余談ではあるが、このアトラクションは「アラビアンコースト」というエリアにある。名前のとおり中東の町並みを模した場所だ。しかし、エリア中、カレーの香りがたちこめているのだ。ハウス食品が運営しているカレー屋があるからで、本場っぽいカレーを提供しているのだが、カレーの本場はインドである。ナンとか売ってるけど、それはインドの食べ物だ。アメリカ中華というかなんというか、設定が非常に雑だが、憎めない。

それにしてもここでは女の子同士のペアルックを本当によく見かける。園内で売られているTシャツなどならまだしも、普通の服のコーディネートを同じにしている子たちを何組も見た。髪型を揃えている子たちもいる。皆、つけまつげをつけ、カラーコンタクトを入れ、短いボトムスからすらりとした脚を見せている。ことあるごとにツーショットを撮る。「もっとかわいくなりたい」という思いを友達と共有できることは本当に素敵だと思う。

水上ショーの時間が近づいてくる。会場周辺の場所取りはだいたい開演2時間前から始まる。といってもそれは一部のマニアがやることで、私は45分ほど前に、そのとき空いていた水際の柵にこしかけた。何かを待つ時間はゆっくり過ぎる。小学生の頃、たまにいとこが来て、遊んでもらうのをものすごく楽しみにしていた。そのとき、待ち合わせの時間が来るのがありえないほど遅かった。それを思い出した。体感2倍くらい、時間がかかる。夏の夜だ。稲光が何度も空を割った。ショーを説明するアナウンスが流れる。一度目は日本語で、二度目は英語で。日本語のほうはショーのポジティブな内容しか伝えなかったが、英語のほうでは nightmare という単語が挟まる。悪役が途中で出ることを、ここにいるほとんどすべての子供は知らない。

少し不安になるくらい大きな音が鳴ってショーが始まる。一応来たから見ておくか、くらいの軽い気持ちで見始めたのだが、おそろしくクオリティが高い。前回に見た数年前のものからだいぶ、技術が進歩している。水や花火を多用するのはもちろん、煙幕をふかせ、そこに映像を投影するのがすごかった。ディズニーキャラクターが、海の上に、浮かんでいる。これがプロジェクションマッピングか。あらゆるディズニーアニメの名場面が、光と音で水の上に再現される。私はシンデレラのドレスが好きだと思った。気持ちがうきうきする。「未開の国からやってきた猿」みたいなものが船の上で踊りを踊っていたのがかなり不気味で、なんとなく「いつか死ぬのが怖い」みたいな気分になってしまったが、総じて楽しい気持ちでショーを見られた。と、鏡の中から現れる悪者たち。白雪姫を殺そうとする魔女(美人)。毒リンゴを売るおばあさん。人魚姫を殺そうとする魔女(グラマー)。「ミッキーの夢をつぶす」という目的のために結集して、水に物騒な動きをさせたり、悪い竜を呼び出して火を噴かせたりして大暴れする。竜の噴いた火は海上でしばらく燃え、こちらまで熱気が迫る。熱い。首すじにじっとりと汗をかく。先日、夏祭りの露店で爆発が起こるという悲しい事故があった。それが頭から離れなくなり、本気で怖くなった。隣で見ていた子供はどこかへ逃げた。ミッキーは、多少やられたりはしたが、彼一人の力でいきなり悪を退ける。あっけなくショーはフィナーレへ。船に乗ったキャラクターたちがこちらに向かって手を振る。ありがとう。ありがとう。さっきの恐怖はどこかへ消え、いつしかショーは終わり、空には「docomo」の文字。そう、スポンサーがdocomoなのであった。

閉園まで時間はあったが、帰ることにした。今日の開園時刻は8時だったそうだ。最初から来ている人たちはさぞ疲れたことだろう。私も数時間いただけでぐったりした。ホームで後ろに並んでいたおばさんに突き飛ばされそうになるのを手で制止して、帰りの電車の座席を確保した。

今日はいい日だった。家具が届くのが待ち遠しい。